遺言書は元気なうちに作成することが大事!
重要な遺言能力って?

遺言能力 相続の準備と知識

遺言を成立させるために必要なものとして、遺言能力があります。

遺言能力がないときに作成した遺言書は無効になります。

この記事では、遺言能力とは何か、どういった場合に遺言能力の有無が判断されていくのかを解説していきます。

遺言とは何か

遺言とは、自分の死後、主に財産の処分方法を指定することです。

民法によって、遺言の方式や指定できる内容が決められています。

例えば、息子には現預金、娘には株式、配偶者には自宅を相続させるという指定ができます。

法律では遺言に関するさまざまな要件が厳格に定められております。

この他に重要なこととして、民法963条では、「遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。」と定められています。

遺言能力とは何か

ここから遺言能力について解説をしていきます。

遺言能力が有るとは

遺言は代理人がすることはできず、本人によってのみ可能な行為です。

遺言をするには、本人に意思能力が必要となります。

法律が遺言に関して求めている意思能力とは、遺言の作成開始から作成終了までに、自分の意思で判断ができる能力です。

つまり、遺言内容を理解し、その結果自分の要望がどのように実現するのかを理解して作成できるということです。

これを遺言能力といいます。

有効な遺言をするには遺言能力が重要な要件です。

特に最近は、超高齢社会により認知症の方が増えており、認知症がかなり進んで遺言能力を欠くと、無効になってしまうため気をつけてください。

遺言能力が無いとは

遺言能力の具体的要件は法律の条文で明確には定められておりません。

なぜなら、明確に定まっていないからです。

医師による診断に基づいて、個別具体的に判断する必要があり、認定は簡単にできない難しい問題です。

前項での記載と重なりますが、遺言書作成に際し、内容および得られる結果をきちんと理解していない状態は遺言能力が無いといえます。

代表的なものは認知症です。

認知症により事理弁識能力が無いままに、遺言しても通常は無効になります。

この他にも例えば、泥酔状態で遺言書を作成したが、翌日には遺言内容はおろか作成したことすら忘れていた場合、遺言能力を疑われます。

遺言が無効になるとどうなるか

その遺言が無かったことになります。

結果、争族になる可能性があります。

以下2つの事例です。

相続人間に変な感情を持たせてしまい遺産分割の火種になる

遺言が一部の相続人を優遇する内容だったとき、他の相続人は気分を害します。

無効ということは、遺言するだけの意思判断能力がないため、内容も合理的ではないことが多いはずです。

たとえ、その遺言の有効無効が解決しても感情の問題は残ります。

つまり、財産の問題ではなく、その後の相続人同士の関係性の問題が出ます。

後に、次の相続が発生したときも紛争の火種になります。

遺産分割方法の問題

遺産分割は額だけではなく、種類の振り分けも大事です。

遺産に不動産と現金だけがあり子2人が相続するとして、不動産を1人の単独所有にして、別の相続人には現金を相続させるという遺言をしたとしましょう。

しかし、遺言能力が無いために、遺言が無効となります。

結果、相続人同士で不動産を共有所有か単独所有かで意見が対立することがあります。

遺言能力の判断基準

遺言能力の有無を判定するには、さまざまな観点が考慮されます。

医学的見地

客観的に様々な観点から総合的に判断します。

他には、診断書や介護の認定資料も判断材料となります。

しかし、単に年齢や肉体的なものではなく、判断能力について注目します。

この判断能力を測る目安として、長谷川式簡易知能評価スケールという検査方法があります。

特徴

・認知症の簡易検査であり、特に記憶力に関する項目で構成されている

・5分~10分で検査できる

・検査項目は9つ

・点数式で、30点満点中20点以下だと認知症の疑いがでる

具体的には、評価用紙と筆記用具およびハサミや時計など関連性のない5つの日用品を用いて行います。

しかし、診断結果はあくまでも参考数値であり、この検査結果をもって直ちに意思能力無しと診断されるわけではありません。

遺言の内容

内容を本当に理解して作成したのかという観点です。

簡単な内容であれば、判断能力があると考えやすいです。

しかし、専門家も関与せずに複雑な内容になると疑問が湧いてきます。

例えば、相続人が妻と兄弟のみの場合、兄弟には遺留分がないため、

「全財産を妻に渡す」

という遺言内容は簡単です。

しかし、日常生活から判断能力が低下していると思われる高齢者が、多額で複雑な財産構成を多数の相続人に対し、複雑な内容で遺言をしていた場合、本当に理解して作成したのかという疑義が生じます。

遺言の動機・理由

内容が普通に考えておかしくないかということです。

具体的には、遺言内容に合理性があるかということで、正常な判断能力ならばこのような遺言をするだろうかという観点です。

例えば、

・普段ほとんど人間関係のない人に、大きな相続分を指定している。

・介護の面倒を長年看てくれて仲の良い長男より、仲が悪く疎遠な次男の方に多く の財産分与を指定している。

このような遺言は、やはり合理性に欠けていると思われ、正常な判断ではない可能性が疑われます。

 

遺言能力を否定された例

以下は裁判例の概要です。

東京高裁平成25年3月6日判決

 遺言者は、1回目の遺言で「全財産を妻に相続させる」と指定したが、後に2回目 の遺言では「全財産を妹に相続させる」と変更しました。

 遺言者は1回目の遺言後に退行期うつ病を発症し、2回目の遺言書作成当時は認知 症とみられる症状でした。

 2回目の遺言時に、配偶者は生存していました。

 裁判所は、2回目の遺言には合理的理由が見当たらないとして無効にしました。

東京高裁平成12年3月16日判決

 遺言者は重度の認知症と医療鑑定されていました。

 遺言書は、本文14ページ、物件目録12ページ、図面1枚という大量かつ複雑な

 内容で作成されていました。

 裁判所は、遺言者はこの遺言の内容を理解・判断できないとして無効にしました。

高松高裁平成24年3月29日判決

 遺言者について成年後見開始の申し立てがされた際、長期間診察してきた医師が

 遺言者には財産管理能力がないとの鑑定意見を作成しました。

 この鑑定内容は合理的かつ説得力があり高度の信用性があるとして、遺言者に遺 言能力はないとの無効判決を下しました。

意思能力が疑われる状態でも遺言は可能

意思能力が低下しても、絶対遺言ができないことではありません。

成年被後見人

成年被後見人でも、一定の条件に基づき遺言ができます。

遺言者が一時的に判断能力を回復したときに、2人以上の医師が立ち合います。

その際医師が、遺言者が遺言をするときに判断能力が無い状態ではなかった旨を

遺言書に付記して署名捺印することによって遺言が可能です。

おそらく被後見人が意思能力を回復して遺言をするのは、認知症のように回復の見込みがない場合には難しいでしょう。

 

被保佐人および被補助人

被保佐人と被補助人は、そもそも遺言をすることについては制限がありません。

民法962条に定められています。

被保佐人は重要な財産行為についてのみ保佐人の同意を要し、これ以外の財産行為は自分でできます。

保佐人の同意を要する財産行為は法律で定められていますが、遺言行為は同意が求められていません。

被補助人は、重要な財産行為の一部についてのみ補助人の同意または代理を要します。

これ以外の行為は自分ででき、遺言行為については被保佐人と同じく制限がありません。

注意点として、遺言ができることと遺言が有効なことは別の問題です。

遺言をしたときの遺言能力が問われるからです。 

遺言能力の有無の判断基準

遺言能力の有無を最終判断するのは、医師の診断ではなく、裁判所となります。

なぜならば、遺言は民法に定められた法律行為だからです。

遺言能力は認知症によって直ちには否定されません。

その判断は医学的資料をはじめとした様々な材料を総合的に考慮します。

年齢をはじめ、主治医による診断書や介護施設での記録簿・認定資料、遺言の内容と動機、場合によっては遺言者の性格や人間関係にまで及びます。

例えば、病院で認知症と診断されていなくても、被後見人として登記されていなくても、日常の言動や行動が異常であり頻度も多ければ、遺言能力を疑われる可能性はあります。

遺言者が無効と疑われないための対策

遺言能力を疑われないための対策について、解説いたします。

公正証書遺言

法律的に遺言能力の信頼性を高めるための手段です。

公証人という専門家が、遺言者の伝える内容を遺言書として作成し確認の上、署名捺印します。

このとき、公証人は遺言内容だけではなく遺言能力にも注意を払って確認します。

加えて、2人以上の証人も立ち会い署名捺印します。

これに対し、自筆証書遺言にはこういった遺言能力の確認方法がありません。

たとえ法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用しても、法務局は遺言能力については関与しません。

秘密証書遺言も、公証人と証人が関与するのは封書への署名捺印であり、遺言能力には関与しません。

この様に、公正証書による遺言は他の遺言と比較して、遺言能力への信頼性が高くなります。

 

医師の診断書

医学的に遺言能力の信頼性を高める手段です。

遺言能力で重要なことは、遺言したときにどのような状態であったかということです。

遺言時点での診断書があればベストですが、実際は難しい問題です。

したがって、できるだけ遺言の作成日に近い時に、精神状態に関する診断を受けることが大切です。

人の精神状態は刻一刻と変化するものですから、遺言した日と診断日があまりに離れていると、信頼性が落ちてしまいます。

もちろん、前記の長谷川式簡易知能評価スケールも併せておすすめいたします。

日々の記録

日記は、客観的に遺言能力の信頼性を高める手段です。

遺言作成時の前後を含めて、日常生活を記録します。

日記、あるいは普段の会話や生活の様子を動画に収めておくことは、客観的な証拠として有意義です。

なぜならば、ある日突然重度の認知症になることは考えにくく、遺言書作成前後の元気な記録があれば、1つの説得材料となります。

カルテなどもあれば、なお強い証明材料となるでしょう。

他にも、状況の変化がわかります。

例えば意思能力が低下した方は、その時々によって症状が変化することもあります。

日々の記録により、遺言書作成時には症状が落ち着いていたと見受けられれば、医師の診断書等と併せることにより、遺言能力の信頼性は高まります。

さらに、遺言作成時の状況を動画に納めることも有効な手段です。

遺言能力があるうちに内容変更も

色々と解説させて頂きましたが、遺言能力の被疑に対して有効か無効かという問題は非常に難しいです。

あらゆる角度からの総合的な判断となります。

しかし、遺言能力については確実な手段が1つあります。

遺言能力が十分にあるうちに遺言をすることです。

遺言するために何をすべきかは、人それぞれの場と状況と立場により違います。

しかし、一般的に考えられることとして下記があります。

・所有財産と負債の確認

・今後の財産および負債についての増減の見込み

・相続人の誰に何を渡すか、相続人以外に財産を渡す人がいるか

・財産分与の金額や種類のバランスと、不動産の共有についての検討

・生前贈与や遺留分についての検討

・遺言方式の種類

遺言をした後、状況の変化により新たな遺言をする時があります。

この場合も、遺言能力があるうちにすることが大切です。

注意点

公正証書遺言は、遺言能力を完全に保証するものではありません。

あくまでも遺言方法の一つです。

たとえ公正証書遺言でも、遺言無効確認訴訟などにより遺言能力が無いとみなされれば無効となります。

もう1つは、どの遺言の種類でも共通することがあります。

たとえ遺言能力があっても、遺言の方式や内容が法律に従っていないと無効になってしまうため、注意しましょう。

遺言能力が台無しになってしまいます。

まとめ

遺言書は遺言能力があるうちに作成することが大事です。

なぜならば、遺言能力の有無が争点となりやすいからです。

公正証書遺言や医師の診断書も、遺言能力の立証手段として大きな影響力はありますが、確実ではありません。

その理由は、法律に明確な条件が示されていない、現代医学は完璧ではないことが挙げられます。

だからこそ、遺言書は遺言能力があるうちに作成するべきなのです。

併せて、遺言内容も法律に従ったものにする必要があります。

専門家である司法書士などに相談することをお勧めいたします。

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